荒川を挟んで東京と隣接し、現在人口60万人を超える川口市。昭和の時代はキューポラの街として知られ、首都圏へ通勤通学する人のベッドタウンと位置づけられることも多いが、ここ数十年大きな変化を続けている。増え続ける人口、産業構造の変化、外国人住民の増加などに伴い、都市に求められる要素も変化する中、課題も多い。特集では、さまざまな分野・視点から、川口の未来について考えていく。 (4/10追記。川口市の人口は令和3年以降減少を続ける。データ出典元:川口市ホームページ)
川口に20年前まで存在したサッポロビール埼玉工場(画像提供:川口ブルワリー/サッポロビール株式会社)
1回目は、大正時代から川口にあったサッポロビール工場が2003年に閉鎖されてから20年がたつ現在、2015年から2020年にかけて次々にオープンし、街のイベントでも存在感を高めている市内4つのクラフトビール・ブルワリーの醸造長に話を聞いた。
―――中高生のころの川口はどんな印象でしたか?
「川口ブルワリー」=五島脩(20代) 川口の安行出身。草加が近く、草加市内の高校に行ったので草加駅を利用していた。地元は自然豊かなところ。ド田舎という感じ。
「麦酒処ぬとり」=山田泰一(40代) 現在の川口元郷駅の近くで生まれ育った。子どものころは町工場がたくさんあって工場の周りで遊んでいた。川口駅周辺は何にも特色がないというか…。今はJR川口駅とバス乗り場の間が高架の歩道になっているが、昔は地下でつながっていて地下商店街があった。
「Grow Brew House」=岩立佳泰(30代) 戸田市出身だが川口市に隣接し、ほぼ西川口なので昔から西川口駅を利用していた。西川口の印象は風俗? (一同、苦笑)
「星野製作所(麦)」=星野幸一郎(30代) 祖父の代より川口で町工場を営んでいたので、自分が生まれたのは東京だが川口に越して草加市に隣接する榛松で育った。草加駅が近いので出かけるときは草加駅を利用、遊ぶのも草加が多かった。
―――エリアによって全然違いますね。
(左から)岩立さん、星野さん、五島さん、山田さん
―――皆さんそれぞれ今とは違う仕事に就いた後、醸造を始めたと聞きました。なぜクラフトビールを造ろうと思ったのですか?
星野 30歳になったときにものづくりをしたいと思い、何がいいかを考えた。お酒自体は好きで、日本酒、ワイン、ウイスキーなども飲んでいて、ビールにはピルスナースタイルの大手メーカーのビールのほかエール、ランビックなど様々なスタイルがあるというのは知っていたし、多少は飲んだことがあった。ある酒販店に行った際、レジ横に積んであったクラフトビールのネーミングに惹かれて試しに購入して飲んだところ、鮮烈な衝撃を受けたことがきっかけ。
岩立 クラフトビールを飲んでおいしいと思ったが値段が高いし、自分で造ればたくさん飲めるかな、と思った(笑)。ほかにもいろいろな理由があるが…。
山田 都内で開業したクラフトビールの店が一軒家を改造して寸胴鍋など見たことのある道具だけでビールを造っているのを見て、ビール造りを仕事にできると知り、やってみたいと思った。
五島 20歳になってお酒が飲めるようになってクラフトビールにはまり、「ビールを造りたい」と言って、お酒を扱う現在の会社に新卒で就職した。最初はいろいろ経験してほしいということで、ほかのいくつかの部署で仕事をして、現在の店の初代醸造長が辞めるタイミングで希望して2代目醸造責任者になった。
―――それぞれ異なるエリアで店の個性も違いますね。
五島 「川口ブルワリー」は川口駅東口の商店街に近く、客層はファミリー層、子ども連れが多い。ゆったりした席で食事ができお酒も飲めるので、ビールが苦手な方もフラッと立ち寄れる感じ。市役所が近いので行政の方が仕事帰りに立ち寄ることも。市内のブルワリーの中心というか、母体が大きく市役所とのつながりもあるので間に入っていろいろできたらいいな、と思う。
山田 「麦酒処ぬとり」は川口駅西口から少し離れていて、開業して2年になるが、当初はビールマニアが多かった。今は普通の人と半々くらい。子ども連れ、犬連れも可にしているので、近くの荒川沿いに犬の散歩に来る人たちの中で口コミが広がり、散歩途中に寄る方が多い。最近は女性客も多い。
―――「Grow Brew House」は西川口駅西口にありますが、いかがですか?
岩立 週末はビールマニアもちょこちょこ来るが、近所に住んでいる方が多い。京浜東北線を途中下車して来る方もいる。子ども連れ、犬連れの方も結構来る。きちんとした仕事をしている人が多いし、西川口は意外とまともだということが分かった。
―――「星野製作所(麦)」は店を持たずにイベントでの出店や酒販店への卸売だけをしていますね。
星野 場所的に店を持ちづらいところなので、覚えてもらいやすいように商品名やラベルを特徴のあるものにしている。川口ブルワリー以外は、何もつながりのないところから酒販店を一軒ずつ訪ねて置いてもらうようにした。
―――クラフトビールを始めて、周辺への広がりなどはありますか?
星野 クラフトビールは副原料も自由なので、その自由さの中に地元とつながれる要素がある。いろいろなものを使って、それぞれが個性のあるビールを造れる。うちは草加に近いので、草加で無農薬の野菜、ビーツ、ユズなどを作っている農家の方から分けてもらったり、カカオニブは近くのショコラティエから分けてもらったりしている。
山田 クラフトビールをやりたかった理由の一つに、よく通っていた角打ちができる酒屋で、普通に仕事をしていたら会わないような方たちと知り合い、ビールの話を通じて盛り上がれるのが面白い、というのがあった。店を始めてからも、そういうことが続いていると感じる。
岩立 農家の方を紹介してもらったり、農産物を使わせてもらったりして、街の情報が入ってきやすくなり、全体像が分かるようになってきた。農産物を使ってビールを造ったら、他の農家の方にも「うちのも使ってみてくれ」と言われるようになり、地元農産物の存在を知るようになった。それまで自分は店の常連というものになることがなかったが、自分で店を始めてさまざまな常連客と話すようになり、街にはいろいろな人がいて面白いな、楽しいな、と思うようになった。
五島 市内ブルワーの方々とのつながりもそうだが、イベントに出させてもらったり、農家の方とつながったりと、広がりがあって面白い。
―――クラフトビールを通じて川口をどのような街にしたいですか?
五島 芝生の広場でビアフェスをやりたい。街ぐるみのイベントが多くあると楽しくなると思う。そこでクラフトビールも協力していければ。
星野 東京の隣なので隣接している地区と一緒に盛り上がっていけるといいと思う。
岩立 個人的に高円寺の感じが好き。若い人たちが店をやっていて、ボロボロの物件を何とかしてかっこよく見せようと工夫している店がたくさんある。西川口もそういうことができる街、若い人がアートワークを発揮できる店がたくさんできる街になってほしい。そうするには街のシンボル的なかっこいい場所が必要なので、「Grow Brew House」をそういう存在になれるようにしたい。
山田 皆さんと似ているが、日常が楽しい街にしたい。かっこいいでも、かわいいでもいいと思うが、川口の西口にも若い人がたくさん来て住んでくれるといいと思う。自分はまず店の向かいで図書館をやってみようかと思い準備している。
―――クラフトビールを通じて川口を楽しくしたいという皆さんの熱い思いを感じました。ありがとうございました。
(敬称略)
対談場所協力:川口ブルワリー